僕は今、ハンガリーの首都ブダペストにあるIT企業に勤めている。
この企業がたまたま日本の会社と取引をしており、日本人スタッフが必要だということで採用された。
今の僕の仕事はユーザーガイドや製品の英語から日本語への翻訳と試作品のテスター。
大学ではフランス語を専攻していて、フランスに留学に行ったことはあるが、英語に関しては翻訳の授業を受けたこともないし英語圏に留学したこともない。したがって、僕の英語は完全な独学だ。レベルで言うとTOFEL ITPで510点。
ITに関しては基本的な知識はあるものの、専門知識はない。しかし、英語のユーザーガイドや製品には専門用語のオンパレードなので日本語に訳すのが難しい時もあるがなんとか僕の英語でも翻訳者として通用している。
テスターの関しても僕は文系なので全く知識はないが、なんとか通用している。
多国籍企業で働くことの難しさ
僕の企業は多国籍企業だ。
社員の大半はハンガリー人で彼らは皆英語が話せる。
そして、その他に外国人社員が何人かいる。
ブラジル人が2人、パキスタン人が1人、ギリシャ人が1人、カナダ人が1人、チュニジア人が1人、そして日本人が1人。
日本では多国籍企業と聞くと、多くの人が「すごーい」とか「楽しそう」といったポジティブなイメージを持つ。おそらく、留学と同じような感覚ではないかと思う。
僕も最初はそういうイメージを持っていた。
しかし、半年働いてみていいこともたくさんあるが、難しいこともたくさんあった。
まず、仕事に対する捉え方が違うこと。
日本では仕事は喜びとされており、自分の仕事に責任を持っている。
一方、ヨーロッパでは仕事は苦しみとされており、皆バカンスのために働いている。
また、南米や北米、アフリカでもそれぞれの仕事観というものがある。
ハンガリー人はヨーロッパの中でも比較的まじめに働くがそれでも日本の仕事観とは大きく異なる。
日本人は仕事中は関係ない雑談はほとんどせず集中し、休憩時間に雑談をする。
しかし、ここでは違う。
たとえば、僕の隣のデスクにはハンガリー人のインターンの学生がいるが、毎日彼のデスクに同じくここで働くインターンの学生が訪れ、長いときには30分も大声で彼と談笑する。ハンガリー語はわからないが、彼らが仕事とは全く関係のないことを話しているのは明らかである。
気晴らしの雑談は否定しないが、30分ともなればそれは気晴らしではなく仕事放棄である。したいのなら休憩ルームですればいいと思う。
インターンの学生だけではない。
正社員のハンガリー人たちも大声で談笑している。これが僕には耐えられない。
ほかにも難しいことはあって、たとえば休憩ルームで飯を食った後に掃除せず汚いままのことが多いとか些細なことであるが日本であれば考えられないことである。
また、この会社では音楽を聴きながら仕事をしてOKなのだが、音漏れが激しい社員がたまにいる。ほかの社員は気にしないようだが僕には我慢できないことである。
多国籍企業で働くことの楽しさ
多国籍企業で働くことの難しさというよりはハンガリーの企業で働くことの大変さを書いたが、今度は多国籍企業で働くことの楽しさも書きたい。
まず、いろんな言語が飛び交う点である。
僕は語学が大好きなのでこの環境は本当に幸せである。
ハンガリー語、英語、アラビア語、ポルトガル語、ギリシャ語、フランス語。
僕はフランス語が話せるのでチュニジア人の同僚とはフランス語で会話をしている。
多言語が飛び交う環境は多国籍企業ならではである。
そして、いろんなアイデアに出会える点も利点の1つである。
日本人しかいない会社であればアイデアはおのずと似てしまうが、いろんな文化や背景をもつ人間が集まった多国籍企業ではいろいろなアイデアが出る。
たとえば、なにか壁にぶつかってプロジェクトが進まないときに、いろんなアイデアがあれば壁を取り払える可能性が早まるし、プロジェクトをさらにすごいものへすることもできる。
また、日本に興味がある人に出会えることもこの会社に勤めていて楽しいと思ったポイントである。
この会社は日本の企業と取引しているということもあって日本の文化などに興味がある人が何人かいて、中には日本語を勉強している人もいる。
自分の大好きな日本に興味を持ってくれる人に出会え、彼らに日本の素晴らしさを発信できることは大きな喜びである。
‟海外で働く=かっこいい”ではない
よく、海外で働くこと=かっこいいことというイメージを持つ人がいるが果たしてそうなのだろうか。
僕も以前はそう思っていた。が、自分がいざその立場に立つと海外で働くことも日本で働くこともそう変わらないと思う。
もちろん経験できることは違うが、日本で働いても海外で働いても自分次第で得られるものは変わると思う。
自分探しのために留学や海外旅行をする人がいるが、海外に行けばなにか新しいものがそこら中に落ちているというのは間違いだと思う。
日本でも海外でも明確な目的や目標がなくただただ生活しているだけではなにも手にできない。
海外で働くことに憧れる気持ちはわかるが、憧れだけでは壁にぶつかった時に簡単に挫折するだろう。
ハンガリーの多国籍企業で6か月働いてみて、海外で働きたいのなら漠然ではなく明確な目的や目標を持つことが重要だと強く感じた。