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エリック ゼムールは2022年フランス大統領選挙の台風の目となるか?

 

ここ数か月、エリック ゼムールという名前がフランスメディアで多く登場し、人々の関心をいい意味でも悪い意味でも集めている。

ゼムール氏はフランスの代表的な新聞フィガロの元政治記者で現在は評論家としてメディアに度々登場している。そんな彼がなぜ人々の関心を集めているかというと、来年2022年にある大統領選挙への立候補が噂されているからだ。

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(写真 Hungary Today)

 

LCIというフランスメディアが11月8日に行ったアンケートでは1回目の投票でゼムール氏にいれると答えたひとはマクロン大統領に続いて2番目に多く、前回の選挙で決選投票にマクロン大統領と共に残ったマリーヌ ルペン氏よりも高い。

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この結果は多くのフランスメディアを驚嘆させたがそれ以上に衝撃的なのは数か月前はゼムール氏の得票率は1桁だったのが爆発的に伸び、今ではマクロン大統領の対抗馬にまでなり得ていることだ。

 

なぜこれほどまでに同氏への支持が集まっているのだろうか?

ゼムールの主張

ゼムール氏の主張は「反移民」「反リベラリズム」「反同性愛」「反フェミニズム」など保守的である。同性愛に限って言えば同じ保守主義のルペン氏は同性結婚には反対しているものの同性愛自体には賛成しているのでゼムール氏の主張はそれよりも強く、いわゆる極右と呼ばれる部類に入る。(『女になりたがる男たち』という本も出版している)

 

同氏は「移民は社会をダメにする」「将来的にイスラム移民によってフランスはキリスト教社会からイスラム教社会に取って代えられる」「移民にはフランス風の名前をつけるべきだ」など移民に対する批判を強めている。(数か月まえには「移民を拒否し続け、失業率は低く、治安もいい日本の社会を目指すべきだ」という趣旨の発言もしている)

また、多民族主義は構わないが、多文化主義は問題だという立場を示し、外国の名前をつけることを禁じる法律の制定を検討している。

 

元来、フランスは移民受け入れと共に成長してきた国で反移民=差別主義のレッテルを貼られる傾向にあり、フランス社会は差別に対してものすごく敏感である。前回の大統領選挙でマクロン大統領がルペン氏に勝った一因はある一定数の有権者が彼女に反移民というだけで「差別主義者」のレッテルを貼り、差別主義者が「自由、平等、博愛」をスローガンとして掲げる国のトップになることを阻止するためにマクロン氏に投票したからだといわれている。

 

しかしながら、ゼムール氏の発言は反移民=差別という社会で支持を集めている。なぜなのだろうか?

1つはフランス社会の中で「フランスは移民を入れすぎている」といった声が大きくなっていることがある。

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2018年にPublic SénatとLes ÉchosとRadio Classiqueが共同で行った調査では50%が「フランスは受け入れる移民の数を減らすべきだ」と答えている。

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CNEWSが今年の5月に行った調査ではフランス人の約7割が人口維持のために移民を受け入れることに否定的な態度を示している。

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2018年のVALEURSの記事で1009人のうち76%がフランスの移民政策に自分の意見を反映させるために国民投票の実施を望んでいると報じている。

 

そのほかに、コロナによって社会が不安定な状況に陥り、外国人に対する憎悪が高まっていることやマクロン大統領の政策への批判の受け皿にゼムール氏が少なからずなっていることが考えられる。(マクロン大統領の10月の支持率は40%) 

 

また、保守主義を掲げる共和党の支持者の中でもより過激な思想を持っている人たちがゼムール氏を支持しているという分析もある。(共和党は日本の衆議院にあたる国民議会で定数577のうち103議席を得ており、野党第一党になっている。マクロン大統領の共和国前進は268議席)

参考: Ces adhérents LR qui soutiennent Eric Zemmour pour l’élection présidentielle de 2022

 

大統領選の展望

1つ注意しなければならないのは、ゼムール氏は大統領選への出馬を正式に宣言していないということだ。マクロン大統領もまだ正式に表明していない。また、先のアンケートで4番目に名前があった共和党のグザヴィエ氏も立候補が決まっているわけではない。したがって、上記のアンケートはメディアが公式に行っているものだが正式なものではない。

 

もし仮にゼムール氏が正式に出馬を表明したら保守票は同氏とルペン氏の間で割れることが予想される。そうなれば、保守票がルペン氏に集中し決選投票にもつれ込んだ前回の大統領選とは違い、マクロン大統領が1回目の投票で勝つ可能性もある。

 

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LCIがフィガロなどと共同で行った11月8日のアンケートでは決選投票が行われる場合、一方の候補はマクロン大統領になり、もう一方の候補にゼムール氏が残った場合もルペン氏が残った場合もマクロン大統領が勝つという結果が出ている。

 

いずれにせよ役者が揃わなければ選挙は始まらない。

まずは、来年の2月26日の立候補期限を待ちたい。